一章:暗夜に生きる者

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 桜太は暗闇の部屋の中、目を覚ました。 恐ろしいとは思わない。 もう慣れた事だ。 ただ悲しいとは思った。 暗闇は桜太の居るべき場所。 そこ以外は許されない。 桜太は暗夜に生きる者だから。 「起きたか、ボス。」  声を掛けたのはスーツの男。 髪はしっかりと後ろに撫でつけられている。 歳は三○歳後半くらいだろうか。 その雰囲気はとてもじゃないが、善良な市民とは思えなかった。 「将人、いつからそこにいた?」 「小一時間、と言ったところか。」 「小一時間ただ寝ているガキを見ていた、と?市位将人ともあろう者が、随分甘くなったものだ。」  皮肉交じりに言えば将人と呼ばれた男は鼻で笑った。 「月神桜太はこんな所で殺すには惜しい人材。まだまだ働いてもらうぜ、ボスさんよぉ。」 クスクスと笑う様は桜太を苛つかせるには十分だ。 だがここできゃんきゃんと吠えれば、将人は更に見下してくるのだろう。 それがわかっていながら吠えるほど、桜太も馬鹿ではない。 「フン。その内我が直々にお前を切り裂いてやろう。」 「そりゃあ楽しみだ。」  それで、と問えば将人は何の事かというように桜太を見る。 「小一時間、用もなく我が目覚めるのを待っていた訳ではなかろう。」 焦れたような桜太の態度は将人を楽しませるだけ。 そうとはわかっていてもついついそういった態度をとってしまうのは、元来の短気さ故だろう。 「ああ。そうだった。オウジサマがあまりに気持ちよさそうに寝ているもんで、忘れてたぜ。」 「貴様っ!」 まぁまぁ、と宥めるような態度にすら怒りがこみ上げる。 「キルが殺られた。」  何の前触れもなく発せられた言葉。 それは今までの雰囲気を一転させた。  キル。 それは桜太の束ねる組織に属する部隊の名だ。 そしてそれを束ねる男の通称だった。 「キル、だと?あの男が、殺られた?」  険しくなる表情。 しかしそれも一瞬のうちに消える。 「そうか。惜しい事をしたな。」 「あいつ、優秀な奴だったからな。」 「次のキルを用意しなくては……。」 何事もなかったかのように話しを進める二人は、人死にという事実を感じさせない。 あくまでも事務的な会話だ。  それは暗夜において、珍しくはない事。 死を身近に置く暗夜という組織の中で、桜太と将人は生きているのだ。
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