一章:暗夜に生きる者

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 血飛沫が派手に舞っていた。 桜太の持つ二本の短刀が空を切るたびに、断末魔の悲鳴が響く。 暗い、暗い闇夜。 月明かりしか知らない出来事。 「将人、何をしている。お前も働け。」 「へいへい。全く、人使いが荒いねぇ。」 「それはこっちの台詞だっ!こんな些事に我を借り出すなど……、」  文句を言いかけた時に襲い来る男。 その胸に短刀を突き刺して絶命させると、桜太は溜息を吐いた。 「フン。貴様もついでに切ってやろうか?」 「遠慮しとくぜ。ボスの牙は痛ぇからな。」  軽口を叩きながらも将人の持つ銃口は激しく火を吹いて、桜太の短刀と同じく男達の命の灯を掻き消していく。 むせ返るような血と火薬の臭いが、辺りを包む。 「これで、終わりか?」 「そのはずだ。処理班を呼ぶぜ?」 「ああ。」  血振いすれば、弧を描いて赤が飛んだ。 その様を桜太は何の感情も映さなかった。  ふと月を見上げた。 太陽の光を反射して、丸く浮かび上がる月。 神聖と妖艶。 二つの顔を併せ持つ月。 それを作り出す太陽は、一体どれだけ美しいのだろう。 桜太の中に燻ぶる興味。 普段は抑え込んだそれが、ふとした瞬間によみがえる。 「フン。我には眩しすぎる光だ。」  自身の血にまみれた身体を見て、桜太は寂しそうに呟いた。 その姿は儚げで、ともすれば壊れてしまうのではないかと思えるほどだ。 将人はそんな桜太を見ている事ができなかった。 「ボス、行くぜ。お前が捕まったら、暗夜は終わりだ。」 背を向けたままの将人に、桜太は無言で頷いた。  そう。 終わりなんだ。 お前が居なくなったら、この闇夜を照らす光が居なくなってしまう。 お前は、暗夜の中の、ただ一つの光。 神聖と妖艶を携えた、月という名の光。 「お前は死ぬなよ、桜太。」 将人は桜太に悟られぬよう、小さく呟いた。
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