別離

3/47
11415人が本棚に入れています
本棚に追加
/1099ページ
「……相変わらず、君は雛に関する事となると熱くなるね。萩に居た頃も何かと世話を焼いていたし、当然といえば当然か」 読んでいた文を無造作に畳むと、桂は吉田へ目を向けた。 「先刻、雛に会って来たんだ」 桂の言葉に吉田の眉間に皺が寄る。吉田には雛乃に会うなと命を下しておきながら、桂は度々雛乃と接触している。それは吉田の耳にも届いていたが、まさか今日も会っていたとは。 吉田の中に苛々が募る。 「島原に居たよ。まさか宴会に参加するとは思わなかったな。余程、壬生狼がお気に入りみたいだね」 吉田のこめかみがピクリと動いた。明らかに不機嫌さを醸し出す吉田に気付きながら、桂は話を続ける。 「髪を高く結ってね、涼しい色合いの着物を着てたよ。いやぁ、あれなら島原で幾人にも声掛けられるだろうねぇ。そういや、道中でも声を――」 桂の話を遮るように勢い良く立ち上がると、吉田は踵を返す。 「おや? どうしたんだい?」 「島原に行ってくる」 「ああ、雛の“男装”を見に行くんだね」 「……男装?」 吉田が振り返ると桂は腕を組み、にこにこと笑っていた。
/1099ページ

最初のコメントを投稿しよう!