別離

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いつも以上に輝きを増す桂の笑顔に、楽しんでいるのだと察する。桂はわざと意味深な台詞を言い、吉田を動揺させたのだ。 恐らく吉田は雛乃が着飾られ、酌の相手でもしてると思ったのだろう。そして、多数の男に絡まれてる、と勘違いし慌ててしまった。 実際は全くの逆だったのだが。 桂は肩を揺らし笑い声を上げると、再び口を開いた。 「あっはっは、こんな簡単に騙されるとは思わなかった。稔麿の慌てる姿、ある意味貴重だね」 普段、吉田が感情を顕にする事は滅多に無い。昔馴染みである桂達や一琉らに対しては別だが、その他の同志達の間では恐れられている存在だった。規律を乱す者は許さず、気に入らなければ直ぐに首をはねる。 後先考えない過激者かいうとそうではなく、全て先を読んでの行動に他ならない。吉田は誰よりも時勢の先読みに長けていた。 非情で近寄り難い雰囲気を持つ吉田だが、人望は非常に厚い。彼を慕う同志は大勢いる。 だが、それでも吉田が感情を包み隠さず素直に吐き出すのは雛乃だけだった。 「……まだ、無駄口叩くようならその口削ぐよ?」 カチリ、と妙な音が響き桂が顔を上げると、吉田が鯉口を切り桂を無表情で睨み付けていた。
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