別離

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静かな怒り程、怖いものはない。吉田は目に見えない殺気という名の刃を桂に突き付け、更には刀も抜こうと脅しているのだから。 だが、簡単に屈する桂ではない。余裕の笑みを湛え、目の前に置かれた湯呑みへ手を伸ばした。 「そんなに苛々しなくても良いじゃないか。私は、何も間違った事は言っていないよ?」 確かに、桂は嘘を言っていない。言葉に含みを持たせただけだ。吉田がそれにまんまと填まってしまい、動揺しただけに過ぎない。 吉田としては不服極まりないのだが、話が進まないのは困る。ここは自分が折れるしかないだろう。込み上げてくる怒りをグッと抑え、吉田は仕方なく刀から手を離した。 「……もういい。いいから早く、本題に入ってくれない? こう見えて僕も色々と忙しいんだよね」 「ああ、雛の様子を窺いに行くんだろう? いやぁ、相変わらず甘いな。陰ながらとはいえ程々にね。下手すると、完全に嫌われてしまうかもしれないよ」 「…………」 この男の脳内は一体どうなっているのだろうか。 前言撤回。 やはり、このままでは終われない。桂を切り刻まなければ気が済まない、と吉田は思った。
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