別離

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苛立ちを増す吉田を横目に桂は湯呑みを置く。突き刺さる殺気に払うように片手を振ると、小さく息を吐いた。 「――今宵、芹沢派が粛清される事は知っているね?」 笑顔はそのままに、桂の口調が柔らかいものから鋭利なものへと変わる。ようやく本題か、と吉田はその場に腰を下ろした。 「一琉から、近々実行されるとは聞いていたからね。それが何? 何か問題でも起きた訳?」 裏社会を牛耳る藤森の諜報能力は、長州のそれを遥かに上回る。幕府と朝廷どちらにも密接に関与している所為か、その情報保持は計り知れない。 今回の件には一琉が関与している。朝廷と京都守護職との仲立ちを行い、速やかに事が済む様、会津公に助言をしたようだ。 吉田の疑問の声に、桂は微かに目を細める。その表情からは何も読み取れない。 「粛清自体に何ら影響はないよ。懸念事項は雛に関する事でね」 雛乃の名前を再び口にされ、吉田の眉間に皺が刻まれる。先程のは冗談で済んだが、これは笑って済まされる問題ではないようだ。桂もどう言うべきか、悩んでいるように見える。 「雛に、先刻会ったと言っただろう? 今にも倒れそうな状態なのに、それを隠して皆と共に宴会を楽しんでいたんだよ」
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