別離

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身体は限界をとうに越えていた。気力だけで持ち堪えているに過ぎない。気を緩めば、雛乃は直ぐ様倒れ寝込んでしまうだろう。 「休息が必要だ、と伝えたんだが拒絶されてしまったよ。やるべき事があるから、それまで倒れる訳にはいかないってね」 「それで? 雛の願いを聞き入れて、何もせずに帰ってきたの?」 話始める当初に比べ、吉田の機嫌は頗る悪い。収まりつつあった殺気も周囲に漂い始めている。それに動じる事無く、桂は笑みを溢した。 「いやいや、何もしていない訳ではないよ。気休めにしかならないが、薬を複数持たせたからね。……ま、服用するかしないかは雛次第だろうけど」 桂はそう言うと、湯呑みを手に持ち口へ運んだ。冷めてしまっているが、喉を潤すには申し分ない。 それを横目に、吉田は苦虫を噛み潰した表情のまま深くため息を吐いた。 「……成程ね。冒頭に、雛を迎えに行けと言ったのはこれが原因か」 「ああ。事が終わり次第、医者を手配した旅籠に連れて行く手筈となっている。状況にもよるだろうが、雛を宜しく頼むね」 頷きを返しながらも、吉田は話の内容に合わない桂の爽やかな笑顔に、胡散臭さを感じずにはいられない。
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