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一琉は黒装束を身に纏っており、今も任務続行中であると窺い知る事が出来る。
音も無く畳に着地し、桂達の横を通り過ぎると何かを探し始める一琉を見て吉田は眉に皺を刻む。一琉の存在によって話が逸らされてしまうと感じたからだ。
吉田の懸念通り、桂は視線を吉田から一琉に移す。思案顔から何か思い付いたような笑みを浮かべると、桂は静かに口を開いた。
「やぁ、一琉。首尾はどうだい?」
「あ? まぁ、予定通り事は運んでるさ。今、芹沢らが丁度八木邸の帰路についた所だ」
桂の問いにそう答えると、探し出した目的の物を懐へ無造作に突っ込んだ。
そのまま踵を返そうとする一琉に再び桂から声が掛かる。
「一琉。雛も、やはり八木邸へ?」
「ああ。芹沢から離れねぇっつって、事が終わるまで傍に居るつもりのようだ。まぁ、壬生狼はそんなのお構い無しに斬り込んで行くだ――ッ!!?」
膨らんだ殺気に思わず反応を示し身体を動かすと、鋭い痛みが頬を襲った。
頬を掠めたのは吉田が携帯していた短刀。一琉が元来持つ反射神経と素早い身の熟しのお陰で軽症で済んだが、下手すれば首に刺さっていたに違いない。
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