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吉田はかなりのご立腹のようだ。
言葉の端々にも刺があり、表情を見なくてもそれは肌で感じ取れる。
弁解はしたいが、今の吉田に何を言っても無駄だろう。吉田を騙していたのは紛れもない事実で、既に事も動き始めてしまっている。
どんな言葉を並べても、火に油を注ぐ形にしかならない。
ああ、何故此処に来てしまったのだろう。一琉は立ち寄った事を強く後悔し始めていた。
「何? 何も言わないって事は、このまま潰しても構わないって事だよね? じゃあ遠慮なく、右足から削ごうか」
「っ、おいおい!! 何恐ろしい事、平然と言ってんだよ!!?」
何の躊躇いも無く鯉口を切る吉田に、一琉は制止の意味も込めて声を上げた。青ざめる一琉の表情とは対照的に、吉田の表情は何処か嬉々としている。
その瞳は獲物を捕食しようとする獣に、よく似ていた。
「一琉が過ちを犯したんだから、その罪を自ら償うのは当然でしょ。大体、前回の時の雛乃の大怪我も、僕はまだ許していないから」
何も、吉田の怒りは一琉だけに向けられたものではない。暗殺に乗り出す壬生狼や計画に加担した桂にも、その瞳は向けられていた。
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