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雛乃に直接会う事が出来れば、沖田もこんな風に悩む事など無かっただろう。だが、雛乃は藤森に保護されてしまい、会う事すら難しい状況。どうしても考えずにはいられない。
斎藤は何かを言おうとして口を開くが、良い言葉が出て来ずそのまま閉じる。今の沖田に何を言っても無駄だと思ったからだ。
斎藤が息を吐き、一度出直そうと踵を返した時、前川邸の門周辺が一段と騒がしくなる。先刻までの事件に関する騒々らしさではない。何かが起きたように思えるどよめきだった。
「……何だ?」
斎藤が疑問を口にしたと同時に、誰かが駆けてくる音が耳に届く。
暫くすると、慌てた様子で八木邸に駆け込んできた藤堂と原田の姿が見えた。
「一君!! ……あ、総司もいた!」
「たたた、大変だ!!」
余程急いで来たのだろう。隣り合わせの前川邸から来たというのに、二人の息は酷く荒い。手を使い大変だと連呼する原田を一瞥し、斎藤は口を開いた。
「何があった?」
「ふ、藤森家が来たんだよ。現当主、藤森紀寿の文を携えて!!」
藤堂の言葉に、先程まで沈んでいた沖田の瞳に力強さが宿る。腰に携えた刀の柄に手を置くと、藤堂を見据えた。
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