間章:雨上がりの空

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藤森の姫は滅多に外出を許されない。許されたとしてもそれは分家筋の者だ。本家の、それも直系の女子が出歩くなど有り得ないという。 それを踏まえて考えると、雛乃の存在は極めて希有だ。先の時代からやってきた事、歴史の流れも知る事も含めてその利用価値は高い。 藤森の思惑の全貌は分からないが、ある程度の予測は出来る。じわじわと迫りくる藤森の手を読み取り斎藤は小さく息を吐いた。 「……成程。外堀から順に埋めていくつもりなのだろうな。平隊士達は雛乃の出自を何も知らない。発覚してしまえば、雛乃は此処には居られなくなる」 雛乃の唯一の居場所であった浪士組に圧力を加え、京での居住地を限定させる。京で藤森に逆らう者など皆無に等しい。藤森が一言発すれば、京で孤立する可能性もあった。 「そんな事、近藤さんや土方さんが許す訳――」 「了承せざる得ない状況に置かれているのかもしれん。藤森は裏に通じている。情報操作で組織を潰す事など造作もないだろう。筆頭局長が亡くなったばかりだ。下手に逆らうと、首を締める羽目になるぞ」 「――っ」
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