間章:雨上がりの空

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答えは―― 「……否ですね」 誰にも聞こえない程に小さく声を漏らすと、沖田は顔を上げた。 雛乃が自分を許す筈などない。梅を殺害し、芹沢に重傷を負わせた自分を雛乃は恨んでいるかもしれない。最後に見た雛乃の顔。あの、酷く怯えた瞳が今も忘れられないのだ。 何処か沈んだ様子の沖田に原田と藤堂は顔を見合わせる。原田はあの現場に居た為、沖田の複雑な心情を把握していた。だが、藤堂は何も知らない。 このまま話を続けるのは不味いだろう。そう判断した原田は、ガラリと話題を変えた。 「そういや、平助。確かお前ぇ、今日飯当番だったんじゃねぇか?」 唐突な原田の言葉に藤堂は怪訝そうに眉を寄せたが、瞬時にその意味を悟ると顔色を変えた。 「は? ……あぁぁ! そうだった!! やべぇ、買い出しに行かなきゃいけねぇのに……!! 左之さん、付き合ってよ!!」 「野郎の面倒なんざ、見たくねぇんだがなぁ……」 慌てて八木邸から出て行く藤堂を追う原田は、そうポツリと漏らす。八木邸を出る直前に沖田達を一瞥すると、軽く手を振ってそのまま去っていった。 残された二人に、秋特有の冷たい風が吹き付ける。
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