間章:雨上がりの空

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原田のあの合図は落ち着いてから戻って来い、そういう意味合いなのだろう。 「……こういう時だけは気が利く男だな」 あからさまに話題を変えたようにしか見えてならなかったが、その気遣いは有難い。 沖田にはまだ時間が必要だ。身内の暗殺に加え、雛乃や藤森に関する新たな事実が発覚し、真っ直ぐに前を見据えていた心を鈍らせている。それでは何も掴みとる事は出来ない。 「一君は、雛乃ちゃんと離れるべきだと言いたいんですか……?」 覇気のない声。絞り出すように紡がれた言葉に、斎藤は首を横に振った。 「……そうではない。覚悟を決めるべきだと言っている」 原田達が去っていった方角を見つめていた斎藤は、沖田に向き直り、彼を真っ直ぐ見据える。 「かつての勢いはどうした。雛乃の力になりたいと、味方でいたいと豪語していたのは嘘だったのか? お前が諦めてしまえば、確実に雛乃は浪士組(ココ)での居場所を失うぞ。何があっても信じてやれ。信じ続ける事こそ、何より大切な事だろう」 「……信じる、こと……」 沖田はそう口にすると、掴んでいた刀の柄から手を離した。
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