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――前川邸、奥座敷。
其処では不穏な空気が流れていた。カツカツカツ、と妙な音が響き誰も言葉を発さない。
上座に鎮座するのは近藤。その隣に土方。近藤と対面するように座っている青年こそ、藤森から訪れた使者だった。
カッカッカッ、その音は次第に早くなり終わりが近い事を示す。最後の一滴まで掻き込み吸い終わると、青年はそれを畳に置いた。
「ぷはぁぁぁ。生き返ったぁぁぁ! 美味しい茶漬けでしたわ。ほんに助かりましたぁ」
手を合わせ礼を告げると、青年は顔を上げた。きちんと結上げられた髷に糸目のような目。身形は悪くないが何故か酷く汚れている。
此処、壬生浪士組に着くなり彼は空腹で突っ伏した。話を聞けば、数日前から水以外何も口にしていないという。このままでは話を聞く事も儘ならない。そう悟った土方は、既に介抱しようとしていた近藤を制し久に頼み急いで飯を作らせたのだった。
「では。改めまして、藤森から来た密樹(ミツキ)いうもんです。どうぞ、お見知り置きを」
深々と頭を下げ、笑みを浮かべる密樹と名乗る青年に土方は微かに眉を寄せた。
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