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「……本名じゃなさそうだな。通り名か」
「よくご存知で! 藤森(ウチ)は敵の多い一族やさかい、真名は迂闊に名乗れんのです。と言うても、私は其処いらに居る使用人の一人ですからなぁ。バレたとしても障害にすらならん、思いますけど」
そう言って密樹は頭を軽く掻いた。へらへらと愛想笑いは消えない。癖なのか、それとも此方の様子を窺っているのか。
土方にはそんな密樹の態度が酷く癇に障るようで、眉間の皺が次第に増えていく。それに気付いた近藤が、慌てて声を上げた。
「み、密樹殿。文は拝見させてもらった。文に記されているように、藤森家は雛乃君を保護しているんだね?」
「へぇ、ほんまの話です」
居住まいを正し、近藤に向き直ると密樹は笑顔のまま頷きを返す。
「私は直接会うておりませんけど、忍の皆はんや使用人達が忙しゅう動いてはりましたから。今は、とある屋敷にて休まれてるようですわ」
「そうか……」
近藤は安堵の息を吐くと共に、複雑な表情を浮かべた。
土方から雛乃が連れ去られた経緯は聞いている。故に安否が発覚した事には喜んで良いのだろうが、雛乃の心情を思うと遣る瀬ない気持ちが胸を突く。
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