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芹沢や梅を慕い、八木邸に毎日のように足を運んでいた雛乃の姿が目を閉じれば今も鮮やかに蘇る。だからこそ、雛乃が手を掛けたと聞いた時は耳を疑った。
どんなに苦しい決断だったのだろう。どれほど深い悲しみに包まれただろう。家族を失った過去を持つ雛乃にとって、単なる事件の一つとして片付けられない事は容易に想像出来る。昼夜を共にし、慕っていた者の死だから尚更辛い。
しかし、近藤とて好きであのような決断を下した訳ではない。
組織を存続させる為には会津からの密命を受ける他、道はなかったのだ。押し寄せる後悔。やはり、雛乃は此処にいるべきではなかったのか。
「ほんで、局長はん。此方の要望、正式に受け入れてもらえるんやろか?」
近藤の心情を見越したように、密樹は核心に触れる。近藤は動揺を悟られぬよう口を閉じると、腕を組み直した。
何も世間話をしに彼は此処に来たのではない。雛乃の身を完全に藤森に置く為、書状を持って通告しに来たのである。
「京都守護職会津中将の元には、貴久様が説明に行かはってます。何の心配もいらへん。返事さえくれはれば、後は全て此方が全て手配しますよって」
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