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密樹の言う若とは、一琉の事だろう。やはり、一琉に頭を下げるしか方法は無いらしい。
沖田は頭を下げる自分を想像してしまったのか、酷く嫌な顔を見せる。それを見た密樹は瞬時に悟った。
「……若さんとも、仲は宜しくないんやなぁ。まぁ、仕方ない思いますけど」
ぼそりと呟いた声は風に乗り消えていく。一琉が雛乃を傷付けた過去があり、沖田は一琉を毛嫌いしていた。一琉を、というよりは藤森全体をである。
「――おい。先刻の言葉から察するに、雛乃と話をする機会は場合によっちゃ与えられる。そう受け取って良いんだな?」
沖田と密樹の攻防を制止する事無く傍観していた土方は、密樹に声を掛けた。
土方の問いに密樹は首を捻ると、細い目を更に細める。
「何とも言えまへんなぁ。決めるのは若さんやから、私がどうこう言う権利は、何もありまへん。ただ、一つ断言出来るんは、壬生に帰すつもりは一切無い言う事ぐらいやろか」
穏やかな表情を浮かべながら、紡がれた言葉は鋭いものだった。藤森はどうあっても雛乃の身柄を当家に置いておきたいらしい。
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