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雛乃が壬生に戻る事は先ず無いだろうと、密樹は確信していた。藤森を拒否しても雛乃には、確かな居場所があるのだから。
だが、それを口にする事はしない。口にしてしまえば雛乃の立場を危うくする。そうなれば、藤森が進めてきた計画も全てが水の泡となってしまう。
雛乃は貴重な鍵だった。
密樹はいつもの要領で、言葉を濁し笑顔で隠すとその場から立ち上がった。
「ほんなら、私はこれにて失礼させてもらいます。早々に伝えな、話は通らんと思うので」
無駄の無い動きに、土方はやはり彼が只の使用人でない事を悟る。刀を持たせたら沖田と互角、いやそれ以上かもしれない。
「へぇ、逃げるんですか」
「逃げるんやない。アンタらの為にわざわざ許可貰いに行ったるんや。感謝しいや」
再び繰り広げられる、皮肉と睨み合いの攻防。そんな二人を朗らかに見ているのは近藤ただ一人。
「総司と密樹殿は、あんなに気が合うんだなぁ」
そう言って、感慨深けに頷く近藤を見て土方は、何とも言えない表情を浮かべた。
「勝っちゃん……」
思わず昔懐かしい呼び名を口にするが、近藤は気付かない。新たに浮上した問題とこれからの組織の事で、頭を痛めていた土方は、益々眉間に皺を寄せるのだった。
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