間章:雨上がりの空

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密樹は顔色を変えた。一琉の稽古は、かなり厳しいものだからだ。途中退場は決して許されない。身体が悲鳴を上げ、動かなくなるまで続けられる。 そんな稽古に長年付き合わされてきた密樹は、名を聞いただけでその恐怖が蘇ってしまう。 「……は、吐きます吐きます! せやから、そない酷な事言わんとって下さい……!!」 涙目でそう懇願する密樹を一瞥し、一琉は密樹から手を離した。解放された密樹は不足した酸素を補うように深呼吸を繰り返す。 「で? 何処に行ったんだ?」 「なっ、長崎に、双葉はんと向かわれたようです。何でも、確かめたいモンと待たせとる客人がおるからやと……」 「やっぱり、長崎か。しかも双葉まで連れ出してたのかよ、あの野郎」 舌打ちを鳴らし、一琉は頭を掻いた。一琉が頭を悩ませている叔父は、父の弟に当たる。だが、尊敬の念は一切持っていない。叔父と甥という間柄よりは、悪友という関係がしっくりくる。 「長崎っつぅと、アイツがいたよな……。また、感化されて帰ってこなきゃ良いんだが」 一琉は深々と息を吐いて、腕を組んだ。
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