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――それから、七日後。
海沿いの道を潮風に吹かれながら、歩く男二人の姿があった。旅装束に身を包んでいる事から、遠方から訪ねてきたのだろう。
「おぉぉ、今日も良か天気たい!」
「……鼻水垂らして、吐く台詞じゃないですね」
目の前に広がる海に声を上げ喜ぶ男性の鼻を一瞥し、同行している青年――双葉は息を吐いた。
季節は晩秋、更に此処は海風が頻繁に吹く。青空が出ていても、日差しが届かなければ日中は肌寒い。しかも男性は先日から風邪を引いており、体調は万全とは言えなかった。
ズズッと勢い良く鼻を啜り、男性は振り返ると腰に手を当て声を上げる。
「なんば、文句ばっか良いよっとか! 晴れた空、広い海、異国の文化漂う街並み。そのどれもが、心躍らせる素晴らしい要素やろうが。そがんとに感動せんで、何に感動しろっちゅうと……!!」
「すみません。道を尋ねたいんですが」
騒ぐ男性を無視し、双葉は通り掛かった地元の人に話し掛ける。
男性に付き合っていては時間が幾らあっても足りない。上手く躱し先を急ぐ方が無難だろう。
道を確認した双葉は、海を背景に語り続ける男性に笑顔を見せて、一人先を急いだ。
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