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「ぶえっくしょい!」
海沿い近くに立つ旅籠屋の二階に男性は居た。双葉とはあの道で別れてから会っていない。此処に立ち寄っていないのを見ると、藤森の所有する屋敷へ無事辿り着いたようだ。
「ああ、寒かー」
鼻水を啜り、男性は部屋に置かれた火鉢で暖を取る。病み上がりの身体に海風は相当堪えたようで、先刻から寒気とくしゃみが止まらなかった。
ごそごそと荷物を探るが、替えの着物以外何も出てこない。旅の間、金は全て双葉が管理している。今は酒を買う事すら出来なかった。
「しかともなかのぅ」
そう口にするが、諦め切れないのが表情に表れている。身を縮こまらせながらも、口を尖らせていた。
――――暫くして。
「お邪魔しますよ」
了承なく部屋の窓を開け、双葉が入ってくる。先程の旅装束ではなく、黒い忍装束に着替えていた。
「お? 双葉、話はついたんか?」
「えぇ。……しかし、勝國(マサクニ)様。何故、下帯姿なんですか」
勝國と呼ばれた男性は、寒い寒いと言いながら着物を何も身に付けていない。下帯姿で、火鉢に当たり続けていた。
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