間章:雨上がりの空

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双葉の指摘に勝國は自分の姿を見て、ああと頷きを返す。 「こいか? 先刻、海に落っちゃごうた時、荷物全部、濡らかしてしもうての。着とう着物も気持ち悪か、替えの着物も冷んたか。そいぎんた、脱ぐしかなか思うてな――」 つらつらと状況を語る勝國の話を聞きながら、双葉は思わず額を押さえた。 突っ込み所が多過ぎる。 何故、海に落ちたのか。あの歩いていた場所はきちんとした街道で、海から距離はあった筈だ。自ら進んで海に飛び込まなければ、海に触れる機会はないだろう。 それに、替えの着物が無いだけで何故下帯姿にならなければならないのか。宿の女中に、代わりの着物を頼むという方法はなかったのだろうか。 豪快というか、常識に捉われず我が道を行くという勝國の性格は未だに慣れない。出会って二年経とうとしているが、常に振り回されてばかりいる。 双葉は息を吐いて顔を上げると、畳に座り込む勝國を見据えた。 「……理由は分かりました。ですが、その姿のままでは風邪引きますよ」 「はははっ。もう引いとるごたっけん、心配すっ必要はなかなか……っくしょい!」
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