間章:雨上がりの空

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このまま放置すれば、前回の二の舞になると容易に想像出来る。 双葉は、小さく息を吐くと懐から薬包を取り出した。幾つもあるそれを、勝國の前に差し出す。 「勝國様。僕が護衛兼医者である事、忘れていませんよね?」 「っ、……わ、忘れとらん」 「それならば、素直に従って下さい。拒否するようならば、最高に苦い薬を飲ませますよ」 勝國の表情が一気に青ざめた。寒気というより、恐怖から身体を震わせ始める。 「あの苦い茶は、処分したとじゃなかとか!?」 「あれくらいの薬湯、もう一度作る事ぐらい簡単です。此処の水は澄んでますからね、きっと良い薬が出来ますよ」 勝國は反射的に首を横に振った。良薬口に苦しとは良く言うが、双葉の作る薬は全て苦味が勝っている。口に含んだら最後、舌がその味に染まってしまい何を食べても苦味しか感じなくなるのだ。 そんな薬を好んで飲む訳がない。だが、素直に従って無事でいられるという保証もなかった。 何故なら、双葉の言い付けを破り独断で海で泳いだという“過去”がある。差し出された薬が勝國の口に運ばれるのは、時間の問題だった。
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