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「……ん?」
ふと、畳に落ちていた薄汚れた紙に気付き双葉はそれを拾い上げる。そこに写されていたのは、随分と懐かしいモノだった。
「……無くしたと思ってたら、勝國様(カレ)が拾ってたとはね」
色褪せ、折り目がついたそれは一枚の写真。この時代には無い、色鮮やかな撮影技法だった。
両親と双子の兄、そして愛して止まない大事な妹。それは今は亡き、在りし日々の家族の姿である。決して触れ合える事のない、過去の残像。
「過去に、すがるつもりはないけれど写真(コレ)を見てると君に会いたくなるよ。……暁久(アキヒサ)」
双葉にとって彼は唯一の存在だった。自由奔放で厄介事は全て弟である自分に押し付けていたけれど、そんな彼の傍にいるのが当たり前で心地良くて、いつまでも共に歩めるものだと信じていた。
“彼の身体”は此処にあるのに“心”が存在しない事がどうしようもなく悲しい。
「……らしくないね」
過去を羨むのはとうに捨てた筈なのに。雛乃に会った所為だろうか。
軽く首を振り、双葉は写真を懐にしまい荷物を抱えると、部屋から足早に去って行った。
窓に映し出された顔は、暁久と呼ばれた青年と瓜二つ。写真より伸びた黒髪が風になびいていた――――
【夢想花 第一部 完】
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