その男、芹沢鴨 <後編>

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太陽が一段と眩しく感じ始める朝四ツ刻。 近藤達の住まう前川邸と隣接する八木邸へ向かっている土方と雛乃の姿があった。 「うえぇっ……まだ気持ち悪いぃ……」 雛乃は未だに口に残る独特の味に、思わず顔をしかめ口元を押さえながら歩いていた。 そんな雛乃を横目に、土方は呆れたような視線を向け屋敷の門扉を開ける。 「自業自得だろうが。そんなになるまで怪我を放置していたお前が悪い。その包帯が取れるまで、水仕事は控えろよ」 「えぇ!? それって、殆どやる事ないのと同じじゃないですか!」 女中の仕事は水無くしては有り得ない。朝餉に洗濯に掃除と、水を使わない仕事は殆ど無いだろう。 あるとすれば裁縫か買い物ぐらいだが、生憎雛乃には外出禁止がまだ解かれていない。 つまりは繕い物をしながら部屋で過ごすしかないのである。 不満の声を漏らし口を尖らせる雛乃に、土方は息を吐いて軽く舌打ちする。眉間に皺を刻んだまま、雛乃の方を振り向いた。
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