追う背中、伸ばす掌

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山崎は言葉を濁らせ沖田と斎藤を一瞥する。その視線に土方は軽く手を振った。それは気にせず話せ、という事を意味している。 「……しかし、副長」 「コイツらは口が固ぇ。聞かれても構わねぇよ」 暫く躊躇った後、山崎は事の次第を話し始める。紡がれた内容は想像以上のものだった――…… ◇ ◇ ◇ 雛乃は布団の中で眠り続けていた。物音を立てても気付かない程、熟睡している。沖田が心配していた理由がよく分かった。 「……寝不足か。全然そんな風には見えなかったんだがねぇ……」 井上はそうひとりごちて雛乃の頭を優しく撫でる。無理していたというのならせめて夢の中でゆっくりして貰いたい。 自分を呼ぶ声に気付いた井上は腰を上げた。障子戸を開き相手を確認する。 その際、ふわりと入り込んできた心地よい風に促されるように雛乃の口が微かに動く。 「……と、とさま……ごめん、なさい。ごめんなさい……」 誰に対する謝罪なのか。 言葉を交わし、出て行く井上にその言葉が届くことはなかった。
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