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壬生より南へ下り、大門を潜ると花街――島原が見えてくる。そこは市中とは違う独特の刻が流れ、昼間と見間違う程に沢山の行灯や提灯の灯りが漏れていた。
花街は酒や料理、そして女性で男性を遇す場所。その花街で諸大名や脱藩浪人達が論議や密議を行っている。
その特別な場所で開かれている宴がまた此処に一つ――……
「稔麿。今日は随分機嫌が悪いんだね」
「……別に」
盃の酒を口に運びながら朗らかに笑う総髪の男性に、窓枠に寄り掛かっていた青年――吉田は舞を踊る遊女から視線を外し男性へと向けた。
「何でわざわざ、今回は島原に呼び出した訳? 祇園でも別に良かったんじゃないの?」
「ああ、それはね……」
「俺が提案したんだよ。任務帰りに丁度良かったからさ」
男性の言葉を遮るように襖が開く。ガラリ、と音を立てて開かれた襖から顔を出したのは一琉だった。着崩れた着流しと髪から滴り落ちる雫に吉田は目を細める。
「へぇ、一琉も来てたんだ」
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