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男性が布団へ移動し幼女を寝かせると同時に、戸口付近が慌ただしくなる。
「帰ってきたみたいですね」
男性の言葉に頷いた青年は土間に降りて、引き戸が開くよりも早く引き戸を開けた。
「栄太郎……!?」
「義助、待ってたよ。早く急いで!」
汗を拭う暇を与える間もなく、青年は義助と呼んだ青年を奥へと引きずって行った。
それを見送り、玄関に残ったのは久坂を呼びに行った総髪の青年と、小柄な青年の二人。
「……大丈夫ですかね。あの子……」
「……何とも言えないが、大丈夫だろ。久坂に任せとけばさ」
額についた汗を拭い、総髪の青年は玄関の戸を閉め戸に寄りかかった。
小柄の青年は心配なのかハラハラとした様子で、庭をぐるぐると意味もなく回っている。
幼女の治療が無事に終わったのは、それからニ刻半経った深夜だった。
偶然に起きた、この出会いが全ての始まりだということを彼らは、まだ知らない。
――安政四年(1857年)
夏が終わり、秋の訪れを感じさせる日のことだった。
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