鴨と雛と梅の花〈前編〉

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雛乃の叫びを完全に無視し、梅は雛乃を抱き抱えて八木邸へと向かう為に廊下を進んで行く。食膳を持ち立っている野口の脇を通り抜けて、足早に芹沢達の元から去っていった。 それを半ば呆然と見送っていた野口と沖田は同時に息を吐く。 「……嵐が去った」 「……そうですね」 梅の行動に驚く二人を横目に、芹沢は満足そうに頷いて扇子を閉じる。ちらりと沖田を一瞥すると踵を返して歩き出した。 「儂らも戻るとするか。野口、行くぞ」 「え、あ、はい!」 野口は返事を上げると、沖田から断りを入れて残りの食膳を受け取る。均衡を保つように体勢を立て直し、先を歩く芹沢の元へと急いだ。 床が軋む二つの足音が去り、一人残された沖田は額に片手を当て深々と息を吐いた。 「……結局、芹沢さんに連れて行かれちゃいましたね……」 実際には、梅によって雛乃は連れて行かれた訳なのだが、八木邸へと拉致された時点で、芹沢がやった事と同じ事ように思えてならなかった。
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