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ぺこり、と頭を下げる雛乃に手を振り返して、沖田と斎藤は雛乃の前から去って行った。
「……行っちゃった」
二人の姿が完全に見えなくなったと同時に雛乃はぽつりと呟く。
火照った身体を冷ます為にパタパタと手を動かしながら、屋敷の方へと目を向ける。
そこには、広間を出て騒ぎ続ける平隊士達と共に雑談する原田達がいた。目が合うと同時に、原田達は手を上げ大きく振る。
「雛乃ー!!」
「お前もこっち来いよー」
誘いを受けるように手を振り返し、雛乃は彼らの方へ駆けて行こうとするが、ふいに感じた気配に振り返る。
だが、そこには誰もいなかった。
(……気のせい? でも、殺気を確かに感じた……)
それは鳥肌が立つような強い殺気。今はその気配すら感じられない。生温い季節特有の風が吹いているだけだ。
不審に思いながらも、雛乃は呼び続けている原田達を待たせてはいけないと、駆けて行く。
その後ろ姿を見つめる影が一つ。
「……気配には敏感なんだねぇ」
佐伯はそうひとりごちると、刀を手にし前川邸を出て行った。
動き出す陰謀。
向けられる刃の先にあるのは、一人の少女――
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