モノクロの世界

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――時は平成、平和な時代。 キーンコーンカーンコーン――…… 閑静な住宅地の中にそびえる白亜の校舎に、午後の始業を告げるチャイムが鳴り響き渡る。 大半の生徒は教室へと戻り授業を受け始めているが、一人例外の生徒が屋上にいた。 「く――……」 図書室から拝借した大量の本を近くに積み上げ、気持ち良さそうに寝転び、寝息を立てている。 咎める者は誰もいない、のどかな空間。少女はチャイムに気づく所が、起きる気配すらない。 終業の時間まで、このままだろうかと思われたその時、足音と共に屋上の扉が乱暴に開けられた。 「雛ぁ!!!! 起きろ――!!!!」 「はっ、はひっ!?」 低い、だがよく耳に通る声で怒鳴られた少女は、夢見心地のまま勢いよく起き上がる。そして、目の前にいる人物に目をしばたたかせた。 「む――……あれぇ? 藤ちゃん~?」 「今は“先生”だろうが。馬鹿」 コツンと軽く少女の頭を叩いて、藤ちゃんと呼ばれた青年は深く息を吐いた。 青年の名前は相模原 藤(サガミハラ フジ)。この学校、柏木学院の非常勤講師である。
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