懐かしい温もり

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「何、最近酒の量を増やしてしまってな。少し悪酔いしただけだ。心配するようなものではない」 「でも……」 不安げに揺れる雛乃の瞳。それを察知した芹沢は雛乃を安心させるように雛乃の頭を再び優しく撫でた。 「大丈夫だと言っておる。何だ、儂の言葉を信用出来ないか?」 反射的に雛乃は首を横に振った。芹沢を疑うなど天地がひっくり返っても有り得ない。何より、雛乃は人を疑う事いう行為自体が嫌いだった。 自分の身体の事だ。芹沢自身がよく分かっている。大丈夫と言えばそうなのだろう。 普段なら、素直にすとんと胸に落ちる芹沢の声もこの時ばかりは何故か、落ち着かなかった。 「儂の心配するよりも己の心配をしろ。そのようでは治るものも治らんぞ」 「そ、そうでしたね。早く治さないと、芹沢さんに二日酔いの注意も出来ないみたいですし!」 「はははっ、そうだ。悔しければ早く壬生に戻って来い。文句ならば屯所で存分に聞いてやる」 胸を燻る不安は気のせいだと自分に言い聞かせ、雛乃は笑顔を繕うと静かに目を閉じた。 雛乃はすっかり忘れていた。 確実に終焉の足音が迫ってきている事に。 残された刻はあと僅か――……
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