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事前に把握していた事とはいえ、先日まで苦楽を共にしていた者の死は堪える。
新見とは意外に長い付き合いだった。酒を飲んではよく時勢について語り合っていた。それすら、もう二度と叶わない――
「一琉様」
指示を待つ忍の声に一琉は思考を打ち消した。藤森を統べる者として、一時の感情に流される訳にはいかない。
先を見定め誰も手出しが出来ない先手を打つ事。それが、一琉に課せられた一つの任務だった。
「……京都守護職本陣と浪士組、双方を引き続き見張れ。近い内に一掃するだろうからな」
何を、とは言わなくても忍達には伝わっていた。一琉の命に従うとの一礼を返すと、彼等は瞬時にその場から姿を消す。
再び耳に入る市中の雑音。その音に耳を澄ませながら、一琉は足を進ませていった。
人が一人死んでも、町は変わらない。いつものように変わらずカラカラ回り機能していく。
「一人の鬼が死に、一人の鬼が生まれる……か。嫌な時代ったらありゃしねぇ」
そうひとりごちて、一琉は小さくため息を溢した。
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