朱い雨〈前編〉

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まだ夜明け前、薄暗い刻限だというのに人影が集まっていた。 そこは副長である土方の私室。彼等は声を潜め、密談を交わしている。 ――そう、ある目的の為に。 「……首尾は?」 「上々です。何の問題もありません」 「店の手配も滞りなく済ませました。後は事を起こし、無事に終わらせるだけです」 薄暗い部屋で報告を受け、部屋の主である土方は大きく頷くと、くわえていた煙管を口から離し一息吐いた。 「明日、予定通り角屋で会合を開く。無礼講で酒も大量に振る舞う。存分に酔わせてやれ」 言葉と共に吐き出された紫煙は部屋の中をゆらゆらと漂う。 頷く人影の中、黒衣に身を包んだ青年が一歩前へ出る。それに気付いた土方が視線を青年へと移した。 「……一つ、気掛かりな事があるんですが」 「何だ」 「藤森雛乃。彼女の存在です」 ザワリ、と空気が騒つく。 中でもその名に素早い反応を見せたのは、廊下側に腰を下ろしていた沖田だった。 「雛乃ちゃんにまで、危害を加えるつもりですか!」 「そこまでは言ってません。ただ、引き離しておくべきではないかと言ってるだけです」
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