舞台はユクモへ……

3/6
前へ
/128ページ
次へ
ガタゴトと、随分長い時間を揺られて気がする。 雪国であったかつての村と変わり、今度のユクモ村は比較的に天候は安定しているらしい。村名物の温泉を求め、危険な道を遠路遥々やってくる人間も少なくないという。 「グラニ」 名前を呼ばれ、数瞬の間があった。それが自分の事だと気付いたと自覚するのに時間を有したのは、まだその名に慣れていないからだろう。 かつてボッカと呼ばれていたひ弱なハンターは、その名をグラニと変えていた。 特に意味があるわけではない。ただ新たな地へ赴くに連れての、心機一転といった所か。 「………あん?」 ようやく返事が帰ってきた事に安堵したのか、荷台の向かいに尻をつくように座っている女性ハンターが息をつく。 「あん、じゃない。新しい舞台へ行くというのに、随分と余裕だな」 「余裕なんかじゃない。ただその名に慣れないだけ」 彼女は己の傍に立て掛けられている鈍器に手を伸ばし、撫でながら目を細めた。 その瞳は女性とは思えないような鋭さを孕み、かつては話す事も億劫していたと思うと無性に腹が立ってくる。 「この新天地というべきか……ユクモの国は“俺”達が知らないモンスターばかりだと聞く。今までみたいに甘く見ていたら命に関わるぞ?」 「そう、だな……わかってる、わかってるけどさ」 はぁ、とため息をついてグラニは背後を顧みる。 そこには石で不安定に揺れているというのに、問答無用で寝息を立てて横になっている男が1人。 もう一度ため息をつき、改めて彼女に呟く。 「あんなに暢気な姿を見せられると……いちいち警戒するのが馬鹿らしくなってくる」 「だから、ここは新天地だ。警戒を怠るな……どこで、」 と、言葉を区切り、 「ロリっ子がいるかわからないだろう」 これがもし初対面ならば硬直し、間抜けなBGMが流れ出す事だろう。 グラニは再びため息をつき、呆れた目線を向ける。 「こんなさら地にいるってどんなロリっ子だよ。つーか、俺はゴスロリっ子しか興味ぬぇーし」 どうしようもない会話の応酬だが、本人はいたって真面目な表情である。 そんな彼らが、この世界の救世主だというのだから、不思議な物だ。
/128ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加