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ガタゴトと、随分長い時間を揺られて気がする。
雪国であったかつての村と変わり、今度のユクモ村は比較的に天候は安定しているらしい。村名物の温泉を求め、危険な道を遠路遥々やってくる人間も少なくないという。
「グラニ」
名前を呼ばれ、数瞬の間があった。それが自分の事だと気付いたと自覚するのに時間を有したのは、まだその名に慣れていないからだろう。
かつてボッカと呼ばれていたひ弱なハンターは、その名をグラニと変えていた。
特に意味があるわけではない。ただ新たな地へ赴くに連れての、心機一転といった所か。
「………あん?」
ようやく返事が帰ってきた事に安堵したのか、荷台の向かいに尻をつくように座っている女性ハンターが息をつく。
「あん、じゃない。新しい舞台へ行くというのに、随分と余裕だな」
「余裕なんかじゃない。ただその名に慣れないだけ」
彼女は己の傍に立て掛けられている鈍器に手を伸ばし、撫でながら目を細めた。
その瞳は女性とは思えないような鋭さを孕み、かつては話す事も億劫していたと思うと無性に腹が立ってくる。
「この新天地というべきか……ユクモの国は“俺”達が知らないモンスターばかりだと聞く。今までみたいに甘く見ていたら命に関わるぞ?」
「そう、だな……わかってる、わかってるけどさ」
はぁ、とため息をついてグラニは背後を顧みる。
そこには石で不安定に揺れているというのに、問答無用で寝息を立てて横になっている男が1人。
もう一度ため息をつき、改めて彼女に呟く。
「あんなに暢気な姿を見せられると……いちいち警戒するのが馬鹿らしくなってくる」
「だから、ここは新天地だ。警戒を怠るな……どこで、」
と、言葉を区切り、
「ロリっ子がいるかわからないだろう」
これがもし初対面ならば硬直し、間抜けなBGMが流れ出す事だろう。
グラニは再びため息をつき、呆れた目線を向ける。
「こんなさら地にいるってどんなロリっ子だよ。つーか、俺はゴスロリっ子しか興味ぬぇーし」
どうしようもない会話の応酬だが、本人はいたって真面目な表情である。
そんな彼らが、この世界の救世主だというのだから、不思議な物だ。
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