第二話

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(こんな時間になるとはな…) リザの家に行くためには、定時に仕事を終えるということが前提条件だった。現在は午後十時を少し回ったところである。こんな夜遅い時間帯では、彼女は既に眠っているか眠る準備をしている可能性が高い。 「……」 今夜は大人しく家に帰るしかなさそうだと判断したロイは黒いコートを羽織り、ロッカーの扉を静かに閉めた。どこか居酒屋へ寄ろうかなどと考えつつ、送迎車に乗るべく地下駐車場へと歩を進めた。 ***** 「お疲れ様です、大佐」 「なっ…」 送迎車の運転手が、ピッと姿勢正しい敬礼をしてきた。 が、ロイは返事をすることが出来なかった。彼の口からこぼれたのは驚愕の声だ。目は驚きに大きく見開かれている。 「……なんで?」 人間には、驚きの度合いが一定以上高くなると逆に冷静さを取り戻すことが出来る能力でも備わっているのだろうか。ロイは比較的静かに、目の前の運転手に問い掛けた。 「なんで、君がここに?」 ロイの目の前に立ち、彼を待ち続けていた運転手…彼は、否、彼女は、自宅に居るはずのリザ・ホークアイだった。 「送迎は副官の業務に含まれます。お忘れですか?」 執務中と変わらない淡々とした口調で述べるリザではあるが、その格好は副官の装いではない。ジーンズにTシャツ、カーディガンというラフな服装に加えて長い髪の毛はまとめられていないと言う、完全にプライベートの格好である。 「だが、君は今日は休みだからファルマンが送迎担当の筈だろう?どうなってるんだ、一体」 首を傾げながらもロイは、ここにリザが居ることの理由に思い当たる節があった。が、それはあまりにロイにとって都合の良すぎる解釈・思い込みである可能性が高いため、彼はリザに確認が出来ずにいたのだ。閃いた仮説をごまかすように、ロイは薄着のリザに自分なマフラーをぐるぐると巻き付けた。 「――お祖父様……グラマン中将から大佐と私に呼び出しがありまして。私の家から中将の屋敷まで行くのに軍部は通り道でしょう?乗り合わせて行った方が早いかと思ったので、寄ってみました」 リザは珍しく、ロイと視線を合わせようとはしなかった。口調もどこか曖昧で、言葉を濁す。単刀直入に物事を話すのがのが常であるリザだからこそ、その回りくどい言い回しにロイは違和感を感じたのだ。
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