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急にロイが動いたのを視界に捕えた瞬間、リザの身体はロイの両腕に包まれていた。突然の出来事に、彼女はただ唖然とその抱擁を受け入れるのみである。
「…本当に、どうされました?」
先程から支離滅裂な言動のロイに、リザは訝しげな目を向ける。恋愛経験豊富なロイが、こんな雰囲気も何もかも無視した、まるで恋を知らない初な少年のような態度を取るなどとは、彼女の想像の範疇外だった。
意外な一面にどう接するべきか迷いあぐね、取り敢えずいつものようにリザはロイの背に自分の腕を回した。
「……緊張してる」
ややあってぽつりと呟かれたロイの台詞に、リザは目を瞬いた。
きょとんとしたリザの表情を、彼女の首筋に顔を埋めているロイは見ることが出来ない。鼻腔を擽る彼女の香に、くらりと目眩がした。
流れる金色の髪も、長い睫毛も、胸の膨らみも、腰の括れも、リザの何もかもに、ロイは焦がれていた。
「その…。…ほら、二人きりになるの、久しぶりだから」
ほんの一月も経っていないにも拘らず、なぜ胸が高鳴るのか。まるで、初めてリザに触れたようだった。
「……リザ?」
情けない言い分に、呆れられただろうか。ロイは言葉を返さない恋人の顔を覗き込む。
「だ…っ、だめ!」
「っ!?」
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