第二話

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リザはパッとロイの前に手を翳し、自分の顔を覗き込もうとした彼を押し留めた。 「どうした?」 態度が豹変したリザを訝しむように、尚もロイは彼女の瞳に自分の姿を映そうと、視界を遮るリザの手を退けた。 「貴方が…柄にもないこと言うから……」 間近に感じるロイの視線を避けるべく、リザは彼から顔を顔を背けた。 「私まで恥ずかしくなったじゃない…」 ロイの緊張がリザにも伝染し、二人はしばしその場に固まる。気まずいような、しかし不快ではない沈黙が二人の間に落ちる。 それを破るように先に声を上げたのは、ロイの方だった。 「ふっ…ははっ」 良い年をした大人同士の、それも長い付き合いの自分たちに、こんな初々しくなれる瞬間があるとは。可笑しくなったロイの口からは、クスクスと小さな笑い声が漏れる。 「ふふっ…」 その笑いにつられ、リザも口元に笑みを浮かべた。 緊張が解けた二人は、そのままやんわりと互いの身体を抱き締め合う。数週間ぶりの、愛しい恋人のぬくもり。その体温を感じるだけで、身体中にじんわりと甘い痺れが広がる。 「やっと、君に触れられた」 甘えるようにリザの首筋に顔を擦り寄せながら、ロイは心底幸せそうに呟いた。 多忙な日々に忙殺される中での小さな幸せ、互いが傍に居るということの安堵。それらを自分が今、噛み締めているように、リザも同じように感じてくれているだろうか? どうかそうであって欲しいと願いながら、ロイは一層きつく恋人の身体を抱き締めた。 fin.
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