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その店はジャズが流れる小洒落た居酒屋だった。居酒屋と言うよりも、レストランと言っても差し支えがないような落ち着いた雰囲気の店である。
「コース料理にしたんです。おなか空いてらっしゃるでしょう?」
「ああ…気が利くな」
二人が案内されたのは小さな個室のような作りの席だった。向かい合って座るタイプではなく、壁に沿ってテーブルがあり、それに備えつけられた少し小さめのソファに並んで座って食事をするという、変わったタイプの席である。どうやらカップル向けに作られたもののようだ。
そんな席に座ったロイは、隣のリザに腕や肩が触れないように苦心していた。人前や公共の場でイチャイチャすることをあまり好まないリザに気を遣ったのだ。
が、しかし。
「疲れてますか?なんだか今日は静かですね」
「っ!!!」
驚いたことに、リザは彼女の方からロイにぴったりと寄り添ってきた。そればかりか、そっとロイの手に自分のそれを絡めてきたのである。
付き合っているから勿論手も繋ぐしキスもする。一緒に眠るし抱き締めたり抱き締められたり、というのもある。しかし、リザの方からそう言った恋人らしい行動を取ってくることは、何度も言うが本当に稀なことだ。
ただでさえ積極的な言動のリザはロイにとっては珍しく、不覚にもドキリとしてしまうのに、それを短期間に連続で行われては身が持たない。情けない話だが、積極的なリザを前にするとどうにも緊張してしまうロイなのだった。
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