第一話

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(5)  ロイの問い掛けに、リザは俯いたまま答えようとしなかった。「上官命令」の一言を使えばリザの口を割らせることは簡単である。しかし、プライベートでは対等な関係にありたいと思っているロイは、その方法だけは決して使いたくなかった。  急かさないように、しかし諦める素振りも見せることなく、ロイはリザが口を開くまで辛抱強く待った。 「…先週、レベッカとその恋人との3人で食事に行ったんです」  しばらくして、リザがようやく口を開いた。安心させるようにロイはリザの手を握り、話を続けるよう促す。 「それで?」 「…レベッカは誰に対しても素直に感情を表現出来るでしょう?」  言われてロイは、リザの親友を思い浮べた。姐御肌でしっかり者のレベッカは、確かに良くも悪くも感情が態度にそのまま反映されている。 「時々それが裏目に出ることもありますが…彼女の素直さは私にはないものだから、ずっと羨ましく思っていたんです」 「そのことを話したら、レベッカの恋人に言われたんです、」  そこでリザは一旦言葉を切った。続きを言おうかどうか迷っているようだ。ロイは「大丈夫、続けて」と静かに先を促した。 「………っ、」  しかし、リザの口からは話の続きではなく、小さな嗚咽が零れてきた。リザがロイに涙を見せるとは、これもまた珍しいことである。 「……」  リザが落ち着くよう彼女の頭を撫でながら、ロイは考えを巡らせた。  どうやら、リザの不自然なまでの積極性にはレベッカの恋人が発した言葉に原因があるらしい。何を言われたのかは分からないが、ロイ以外の男性と付き合ったことが皆無のリザは恋愛に疎い。そのコンプレックスを突くような発言を相手がしてしまったのだろう。  リザは恋愛以外では常に毅然としており、冷静で頭の回転も速い。そんな性格とコンプレックスが相まって、言われた言葉を真剣に受け止め過ぎてしまったのだとしたら……おそらく彼女は、一人悩み、不安になっていたに違いない。 「リザ、落ち着いて」  狭いソファの上でどうにか体勢を変え、ロイはリザをぎゅっと抱き締めた。
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