シナモン

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   5年ぶりに彼と再会したそこは、不思議なもので、5年前に彼と別れた喫茶店だった。 「久しぶり、って言えばいいのか? こういう時」  5年前と同じ、アメリカンコーヒーを飲みながら、彼は苦笑いを浮かべる。 「……そうね。久しぶり。お元気そうでなによりだわ」  シナモンの香りを楽しみながら、私は紅茶を口に含んだ。  私の知る彼より5つ年をとった彼は、当たり前だが私の知る彼とは少しだけ違っていて、 「そういうところは、相変わらずだな」  けれど、彼の低いバリトンの声は、相変わらずだった。 「そういうところ?」 「あぁ」 「例えば、どんなところかしら?」  聞き返すと、彼はさも可笑しそうに言った。 「そういう、一歩間違うと無愛想なことをさらっと言うところだよ」  小さく笑いながら彼はコーヒーに手を伸ばす。 「貴方も、相変わらずね」 「ん?」 「そういう、人が傷つきそうなことを、さらっと言うところ。全然直ってないみたいね」  彼は一瞬目を見開いて、 「ははっ。違いない」  すぐに納得した表情で頷いた。
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