殿軍

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芦原の穂先を揺らす秋風が、長嘯(ちょうしょう)の尾を引くように物悲しい音を立てて吹き過ぎていった。 その芦原を望む開けた河原に、100騎ほどの甲冑姿の騎馬武者と徒歩(かち)立ちの足軽200人ほどが屯している。 時刻は夕暮れが近いのであろう、居並ぶ武士達の足元から、地面に差し掛かる影が長く伸びていた。 芦原の先からせせらぎの音が聞こえてくるのは、川が流れているからだが、丈の高い芦に隠されて、武士達の位置からは見えていない。 やがて、その騎馬隊の指揮官らしき騎乗姿の武士が、 「鹿介(しかのすけ)、支度はいいか。」 と傍らに控える騎馬武者を振り返りながら言った。 「そろそろ来ますね、叔父上。」 声をかけられた若武者は、白い歯を見せて笑った。 「もう一働きしましょう。」 鹿介と呼ばれた若武者は、この武士達の一団の中でも一際身体の大きな男で、緋糸縅(あかいとおどし)の鎧姿に、鹿角(ろっかく)の脇立、三日月の前立の兜を被っている。 鹿の角をあしらった兜を被る背の高い姿は、若いながらも周囲を威圧する気迫が溢れていた。 芦原の向こう側では、せせらぎの音を掻き消して、地鳴りのような蹄の音が轟き、芦に隠されて未だ姿は見えないものの、濛々と上がる土埃が迫ってくる。
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