殿軍

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白鹿城は、島根半島の北側の突端にあって、日本海に臨む海上輸送の拠点である。 もし白鹿城が元就の手に落ちれば、出雲国内の海上からの補給線を毛利氏に奪われることになってしまう。 この深刻な事態を受けて、義久は、弟の尼子倫久(あまごともひさ)を総大将に任じ兵10000人を率いて、救援するように命じた。 尼子の援軍は、和久羅から駒潟に進出したが、9月23日、毛利家の将、吉川元春と小早川隆景の要撃を受けて負け戦さになってしまったのである。 周到に押さえ込まれた白鹿城の救援をするのに、支援を見込めない敵地と化した、陸路のみから進撃すること自体、土台無理があったのだ。 敗走する尼子勢は、敵の追撃を受けて甚大な被害を出してしまった。 やがて、追撃軍のほとんどは引き返したのだが、そのうち1000騎の騎兵部隊が執拗に追い縋(すが)ってきていた。 その時、敗走する尼子勢の中に、僅か兵300人と共に殿(しんが)りを引き受けた2人の武将がいた。 殿りというのは、敵の追撃を食い止めて、本隊が撤退する時間を稼ぐ任務で、負け戦さで浮足立った味方を以て、勢いに乗る敵を防ぐという困難な役割だ。 よほど兵から信頼を受けている、統率力のある将でなければ、生還を期することは元より、踏み止まることすら難いであろう。
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