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鹿介と小助が、小春を連れて京へ戻ったのは、晩秋の頃である。
木々を彩っていた紅葉も今は、すっかり葉を落とし、山道を歩く一行の足元には風に巻かれた落ち葉が纏わり付いては、散らばってゆく。
鹿介が、出雲国を去って間もなく一年になんなんとしていた。
小春は母と姉を失ってから、この世で頼ることが出来るのは自分一人と思い、鹿介等に心を開かずにいたのであった。
だが、あの時、鹿介の心を知って以来、
もうその必要がないんだ…
と悟ったものか、良く話し時折笑顔を見せるようになっていた。
本来はそんな性質の娘だったのだろう。
しかし、京に近付くにつれ、小春は、次第に口数が少なくなってきた。
別れが近付いてくるのが分かるのであろう。
鹿介は、京へ帰着したら、しっかりと暮らしが安定しているどこぞの武家に、小春を養女として送り出そうと考えていた。
鹿介の暮らしはお世辞にも裕(ゆた)かとは謂えず、しかも自分は何れは戦場に戻らねばならぬ。
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