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夜はなんて短いのだろうと、本気でそう思った。
振り返れば、体育館でひとしきり喋ったあとご飯を食べに行ったり、その後公園で遊び、通学路を行ったり来たりと散歩して、その途中でサキ達カップルにばったり会ったり、ファミレスでくつろぐナナと佐々木くん、そしてそんな二人に合流したらしい彩菜ちゃんを見かけたり……
色んな場所をヒースと巡り、色んな話をヒースとしたはずなのだ。
それなのに、なぜこんなに、足りない気持ちが強いのだろう。
「眠い?」
「ううん、全然」
気付けばまた、私たちは学校の門をくぐっていた。
日付はもう、とうに変わっていた。
(…バレンタインデーに、なっちゃった)
2月14日。
ついに、女の子が一番ドキドキするであろう日がやってきたのだ。
意識すればするほど、チョコ入りの袋を持つ手に力が入る。
いつ渡そうかな。
そんな事ばかり考えていて、ヒースとの会話さえ途切れ途切れになりつつある時――……
私たちの足は、ある場所にたどり着いていた。
ヒースが学校を去ってからというもの、近づくことさえしなかった場所――古い、体育館倉庫の前だった。
懐かしさが一気に込み上げて、私はヒースの手を引く。
「…この中ね、綺麗になったみたいだよ」
「中島が掃除したとか?」
「すごい、当たり!すっごく自慢気に話聞かされたの。お祓いもしたって言ってたよ!」
「お祓い?」
「幽霊が出ないように、だって。もう出るわけないのにね」
何故なら幽霊の正体は、ヒースだったのだから。
「だけど、まだ噂あるんだよ。幽霊はまだいるって、みんな言ってるの。不思議だよね」
不思議。
もう見れないのに、噂が消えない不思議。
そんな不思議を、私は嬉しく思う。
まだヒースが、学校の生徒のままでいるような気がして。
皆がそれを、感じているような気がして。
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