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錆び付いた扉を開ければ、広がる懐かしい空間。
埃こそ掃かれているものの、置いてあるものは変わらない。
私はまたもや嬉しくなって、山積みのマットによじ登った。
「落ちるよ」
「大丈夫!綺麗に積まれてるし」
そう言えば、以前はマットごと落ちて、寝ているヒースを下敷きにしてしまったんだっけ。
あの時はキスしてしまいそうになって――……
「………」
「…?」
(ぎゃー余計な事思い出しちゃったぁぁぁ!!!)
倉庫が暗くて助かった。
…なんて思うも束の間、ヒースがパチリと電気をつけてしまう。
度重なる熱とドキドキで、クラクラしてきた私は、顔を隠しながらそっとマットの山から降りた。
「…………」
「…………」
(何この沈黙ー!!!)
後ろ背に、ヒースの視線を感じる。
私はマットに向かったまま、動けない。
…なんで黙ってるの、ヒース?!
「………ふ」
「へ?」
ついに変な汗が出てこようとしたところで、覚えのある兆候が。
そろそろと首を動かせば、やはり――……
静かに笑う、ヒースがいた。
「ど、どうしたの?」
「ハツキ…ト……」
「?」
「…トカゲみたい」
「………………」
どうやら彼には、マットに貼り付いているように見えたらしい。
恥ずかしさで逆に頭が真っ白になった私を見て、ヒースは一層笑う。
しまいには、目に涙らしきものが――……
(!!涙?!)
ヒースの笑い涙を、確かに見た。
どうしようもなくキュンとしてしまった私。
自分の心臓が壊れそうな事すら忘れ、気付けばその目に手を伸ばしていた。
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