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手が放せないのではなかったのかと、自分でも問いたくなる。
そんな下手過ぎる嘘だったが、ヒースはつっこんでこなかった。
『そっか』
「い、今からそっちに向かうよ!」
『大丈夫?』
「うん!今はナナの家の近くだから、私んちに向かってくね」
『わかった』
こうして通話は一旦切れた。
無言で言い争っていた二人が、その途端に喋り出す。
「嘘は駄目でしょ、嘘は!」
「でもバレたら計画が台無しだよ~?!楽しみも減っちゃうよ!」
「もう計画どころじゃないって!……まずいと思うよ、ハツ」
「……やっぱり?」
私もすでに後悔し始めていた。
「?どうして?なんで?」
一人、サキだけが首を傾げる。
「…演技ド下手なハツの嘘を、ヒースが見抜けないわけないって話よ。とりあえずハツ、早くここを出てヒースに会いに行かなきゃ」
「う、うん」
「それからどうするかは、自分で決めな」
「……うん」
チョコ作りは、ひとまずお預けだ。
私はナナの家を飛び出す。
ヒースについた嘘への罪悪感でドキドキしながら。
それでも、久しぶりに会える嬉しさにドキドキしながら。
まず、何を言おうかと、ドキドキしながら。
携帯電話を握り締め、足を早めていると――……
「…あ?なんでこんなとこにいるんだ、宮本」
「え?」
それはこっちが訊きたい。
何故道中で座っているの、佐々木くん。
休日に会った彼の目は、やはり少し赤かった。
「…たまにはこうやって、文字以外を眺めようと思ってな。休息も必要だろ?」
「そうなんだ……頑張ってるね」
「おう。…で?合格して余裕のお前は何してんだ?」
休息効果か、いつもの嫌みな口調に少しホッとする。
「私は――……」
「ハツキ」
「っわ!ヒース!」
『これからヒースと会うんだよ』
そう言う前に、目の前にヒースが現れた。
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