冬の序詞

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◇ 「おもしろそうでしょう!? まず唯君に試してみようと思ったんです!」 ある夜の、食事後。 部屋に戻ろうとしたら、奈々華さんに呼び止められた。 何か始めるようだ。 もうすでに準備に入って、カードを切っている。 「それで、何?それ。」 「タロットカードです!」 「あぁ…。 占いのカードね…。」 一度くらい、耳にしたことはある。 「そうですよ。きっと楽しいです!! 少しつきあってください。」 (また珍しい物を持ってきたな。) 「ま、いいけど…。」 (占いか…。正直、あんまり興味ない…。) 「夏休みが明けてからの事を占いますね。」 「それじゃあ、すぐに結果が分からない。」 「いいじゃないですか! 夏休み明けが待ち遠しくなりますよ!」 (……ならないな。) テーブルに戻って、椅子を引き、座り直す。 結っている長めの髪が目に留まる。 見た感じもとても若い。 いや、実際にも若いのだからそれも当然だ。 しかし、それに似合わないくらい面倒見が良く、しっかりした様子なので、必要以上に大人と感じてしまうのだ。 時々の子供扱いは気に入らないが、いつも優しい笑顔を向けてくれる。 少し沈黙。 カードを切る音が、より大きく聞こえた。
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