冬の序詞

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少しの間、じっとカードで占いをするのを見ていて、一つ質問をしたくなった。 それは、常々思っていたことだ。 「あのさ、一つ聞いていい?」 「ええ、いいですよ。何ですか?」 切り終わったカードを並べながら、優しい笑顔で答えた。 オレは、この人が嫌いじゃない。 「奈々華さんってさ。 いや、弁護士ってさ、忙しいんじゃないの?」 オレの頭に描かれる弁護士は、最も大変そうな職業の一つ、というイメージなのだ。 だから、オレの問いは、世間一般の常識に則った質問のはずだ。 おかしくない。 「そうですねー。 まあ、それなりですよ。」 それなりに忙しい、という意味だろうか。 (だから、そうは見えないんだって!) 「普通、もっとも忙しい職業のうちの一つだと思うんだけど。」 他人の世話をしたり、夕食後の占いをしている時間がいったいどこにあるのか、とても不思議だ。 「みんなが思うほどではないんですよ。 きっと。」 「…そ、そう…。」 本当に苦もなく答えるので、嘘ではないようだ。 …じゃあ、世間一般の常識からズレてるのは、この人の方かな…。 それは、いい意味で。 「できましたよ!」 気がつくと、テーブルの上に整った形でカードが並んでいた。 「で、どうやるの?」 並んだカードは全て裏向きだ。 「私がめくって、結果を伝えます。」 順番に、カードがめくられていった。
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