冬の序詞

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▽ 痛い。 ひどい頭痛がする。 朝日さえも、歪んで見えたかもしれない。 目覚めは、最悪だ。 幼いときから、時折見る夢に起こされた。 悪夢と呼ぶべきだろうか。 夢はそうでもないが、少なくとも目覚めから考えれば、そうに違いない。 「…痛ッ…。またかよ…。」 (最近多い。 高校に入ってからかな。 これは、もはや持病のようじゃないか。) ところで、今日は、夏休み明けの始業式。 全国の学生の9割が、今朝は憂鬱だろう。 当然、オレもそのうちの一人だ。 重い体を無理やり起こして、ベッドから出る。 空腹が朝食を求めているのがわかる。 学生になってから常々思っていたことだが、家の構造からして、オレの部屋はリビングから一番離れている。 そして、長い廊下や階段は、いつもオレを同じ思考へと導くのだ。 (ここまで無駄に広くする必要は無かったはずだろ。 オレしか使わないんだかさぁ…。) そう。 この家には、俺しか住んでいない。 オレの親である一ノ瀬 賢一郎と涼子はとてつもない仕事人間で、今は海外にいる。 父親の方は、昔からずっとそうだったが、母親もオレが十歳ほどになってから、向こうに行くことになった。 デザイン関係の会社を担っているらしく、海外にいる方が仕事に好都合なのだと言っていた。 それ以上、詳しくは知らない。 オレは、ついて行こうと思わなかった。 それらのことが理由となって、オレが毎朝長い廊下を歩いているのだと思う。 悔やんではいない。
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